Hozumi_Kitamura_site

Included stories
収録作品
What is eternity? What is life? Ordinary or extraordinary? A mysterious story exists here. As soon as you open the pages, it unfolds before your eyes.
永遠とは何か? 命とは何か? 日常か非日常か? ここには、不思議な物語が存在する。それは、ページを開けばすぐに、目の前で繰り広げられる。。。

小説「オンエア」
眼前に広がるのは海だった。場所は把握している。だ けど、その景色はこうして実際に来てみない分からないものだな。青い空に青い海。そんなアイドルソングのような景色が実際にあるとは考えたこともなかったけど、今日のこれかもしれない。何の種類か知らないが、二羽の海鳥が空に泳いでいる。円弧を描きながら風と波乗りしているみたいだ。海の街。ここで長く居るとは思わなかった。そういう事も全部、何しろ自分は初めてだから。「だいぶ待った?」その人がそう聞くと、「いや、大丈夫です。そんなには待ってないです」僕はそう答えた。

小説「緩衝バッファ」
「そろそろ車の免許も返納しようかと思う。もう乗っていてもな……。反射神経もだいぶ衰えてきたし」ボソリと父は言う。父も母ももう随分と早く寝る習慣になっているが、それはそうだ、もう八十も近い年齢だ。そんな両親の住む実家に着いたその日、いつの間にか僕は寝ていた。いや、寝ていたのかも曖昧だ。実家に向かった記憶は微かだ。もしかしたら向かってもいなかったのか。だとするとどこかで僕は倒れてしまったのか。繋がらぬ記憶が、顔見知りの隣人の名前を思い出せないくらいにモヤモヤした気分にさせていた。

小説「YOTSUBA」
反人工知能研究者とレッテルを貼られた秋田は、法的措置でHM(ハッピーメモリー)β型を装着させられる。反逆に出ようとした矢先、違法に自分の全視界データを収奪されていると知ると、新日電ワトソン社に乗り込んだ。レジスタンス協力者の五十嵐らと綿密に企てたデータサーバー破壊工作が成功するかに見えたが、秋田には追跡者の影が見え隠れする。背後から捕まり、床に叩き付けられた秋田は、目前の暴漢を……。

小説「太郎の趣味」
僕はいろいろなアパートに短い期間ずつ住む。住んでは転居し、そしてまた新しい場所に住む。いずれも大学へ通える市内だ。僕は住む部屋の隣人をよく観察していた。傾向としては、なぜだか変わった隣人が多い。そのうち、シェアハウスに住むことになった。僕がこんな趣味を持ち始めてから、ある時、大学の様子がちょっと変だと気付く。どうやら人に聞くと、一年生だった田所君という人が殺されたとの噂だ。学校中がいろんな事に自粛ムードだ。警察の姿も何度か見掛けたりした。その時、ルームメイトの沼尻が……。

小説「スガタカタチつながり」
サトミは意識を取り戻さない“あいつ”の体に寄り添って泣いていた。しかし医者は絶望的だと宣言する。彼女の一縷の望みに奇跡は起きた。あいつは彼女の前に再び瞼を開ける。だが、この世で最もサトミの事を想っているのはあいつではない。俺だ。だから俺はサトミとその彼氏であるあいつに四六時中付き纏い続けた。しかしその自らの素行に嫌気が差した俺は神に言われるのだった。「私はお前に使命を授けなければならない」そして、あいつの事を知らされる。

小説「顔と名前」
人の顔を覚えていること。それは、私が小さな頃からの特技だった。双子の見分けが完璧だったり、一度覚えた親類の顔を忘れなかった。タレントの名前や幼稚園の先生など、とにかく一度見たら忘れない。家族で出かけて街で芸能人を見掛けたとき、誰より先にそれに気付いたりした。髭を生やした人がいて、ある時に髭を剃り落とした事があったが同一人物だとすぐに判ってしまう。しかし私は頭脳明晰というわけではない。人並みの成績しか取れなかった。それほど学習能力が高いわけではないし、努力家でもない。それでも私はなぜか顔だけは忘れなかった。